高速道路の現状に対する無知蒙昧

「高速道路を無料化して、もっと高速道路の交通量を上げよう」と言う発言は、つい先日訪れたGWに首都圏から車で遠出をされた方には到底考えられないことだと思います。私にとっても、先日の5月6日の午前1時30分(=5月5日の25時30分)に上野原付近の中央道の上に架かる一般道を通り過ぎた際に見た光景を、今でも鮮明に思い出すことができます。
あの時点で、あの時間であるにも関わらず、車・車・車の大渋滞。併走する国道20号にも多くの車が走っていて、とても深夜とは思えませんでした。


再三指摘していますが、山崎養世氏は高速道路の現状を全く理解していないようです。連日、早朝から高速道路の渋滞情報が流れていると言うことさえ知らないのではないでしょうか。相変わらず「一般財源化は高速道路の借金返済から始めよ」と言う内容のコラムを書かれています。
多くの人にとって、多くの高速道路が有料であるか無料であるかと言うことはそれほど重要な問題ではなくて、その道路を利用することが自分にとってどれだけメリットがあるのかと言うことが問題なのです。幾ら無料といっても、使われない道路は何時まで経っても使われません。
逆に、高い金を払ってでも使ったほうがメリットのある道は今でもガンガン使われていて、多くの渋滞を引き起こしているのです。連日続く高速道路の渋滞情報がそれを物語っており、オウム返しのように無料化といい続けるのは愚の骨頂です。

 高速道路ユーザーからの税金を流用しておいて、その上に通行料金を年間2兆5000億円も徴収しているのです。高速道路ユーザーからの二重取りと税金の流用のうえに日本の道路の建設は行われているのです。その分、一般道路に過大な財源がつぎ込まれてきました。

この理論は「税金さえ払っていれば全ての社会サービスは無料で使えるべき」と唱えているに等しく、利用者負担の原則から外れる事だ。税金を払っているからと言って都営バスや都営地下鉄が全面的に無料になることはないし、またあってはならないことです。
それは大多数のサービスを利用しない、若しくは利用できない方方の負担を増やすだけに過ぎません。

日本はわざわざ高速道路のために道路公団という組織をつくり、民営化とは言いながら施設を独占する高速道路会社が残りました。しかも、売れる資産もなく巨額の借金を抱えるだけの日本高速道路保有・債務返済機構(以下、高速道路機構)なる独立行政法人まで作られました。民営化によって道路公団は見事に借金をこのペーパーカンパニーに飛ばしました。借金を返せなくても高速道路会社には何の責任もなくなりました。


 ところが借金のほとんどは政府からの借り入れか政府保証がつきますから、返済できなくなれば国民の負担になるのです。国家による借金の「飛ばし」です。民営化の美名の下に、こんな狡猾で無駄な仕組みが新たに作られました。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080507/155496/index2.html

この部分は私も大いに問題視しているのですが、逆に言えばこういった無駄を省くような政策を与党に期待すべきであり、その提言をするほうがよっぽど効果的ではないでしょうか。国民の税金によってこの借金を返済することが悪であるとするなら、何故山崎氏はこれらの借金を国が引き受けるべきだ、と主張するのか全く分かりません。
一応、その答えは下記のようなもののようです。

 そして、高速道路無料化が実現すれば、道路建設の無駄は劇的に減ります。普通の先進国として、道路財源の範囲で高速道路も一般道路も作ればいいからです。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080507/155496/index3.html

ですが、高速道路が有料のままでも「道路財源内で高速道路を作る」と言うように道路の作成方針を変えれば山崎氏の求める状態にはなるのですから、答えとしては不十分でしょう。逆に言えば、税金を投入して借金を返済して無料化したところで、現状のシステムが改まらなければ、また多くの借金を抱え込むことになるだけではないでしょうか。
どうも山崎氏は「高速道路無料化」と言う目的の為に「税金の無駄遣いの撤廃」と言う方便を使っているように思います。本来は逆、つまり「税金の無駄遣いの撤廃」が目的であるべきでないでしょうか。そう仮定した場合、道路特定財源を高速道路のみにつぎ込んでまで高速道路無料化を実現することは、目的に合致する行為と言えるでしょうか。


それに以前のコラムで山崎氏はこう述べています。

 まず、「首都高速阪神高速を無料にしたら、渋滞がひどくなるだけではないか」というご意見が多くありました。その通りです。


 ですから、前回のコラムでは「欧米の一部で実施されているように、混雑緩和のために大都市部だけは料金を取ったり、時間や混雑に応じた料金の徴収をするロードプライシングを行ったりすることです。もちろん、料金は財政収入になります」と述べています。大都市部では、有料を維持すべきだと思います。原則無料、大都市の一部だけ有料、というのは英国や米国でも採用している方式です。

高速道路の無料化で地方も大都市も豊かに

料金徴収機関は残すのならば、今回述べている下記の内容と矛盾すると思います。

 国民の財産であるはずの高速道路での施設運営を独占している高速道路会社はすべて廃止します。もちろん、巨額の借金を国民に最終的に押し付ける役割の高速道路機構という名のペーパーカンパニーも廃止です。


 「不要な天下りを徹底排除する。すべての省庁、独立行政法人、関連公益法人に至るまで、無駄な歳出を徹底的に洗い出し、無駄ゼロに向けて見直す」という福田総理の言葉を実現できるでしょう。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080507/155496/index3.html

また、高速道路の整備をする集団も現状と同じように必要でしょうから、高速道路の無料化が即天下り先の徹底排除に繋がるとは到底思えません。

 まず、今まで高くて使えなかった高速道路が無料になれば利用者が増えます。実際に直轄方式で全国初の無料の高速道路ができた秋田県では、有料区間は1日3000台しか利用者がいませんが、無料区間になると10000台が利用しています。


 今は料金が高くて使われていない東京湾アクアラインや本四架橋や全国の5200キロの高速道路が無料になって使われるようになれば、宝の持ち腐れが有用なインフラに変わるのです。さらに、料金所をなくし、一般道路との出入り口を今の3倍程度に大幅増設すれば、高速道路と一般道路の接続は大幅に改善されます。そうすれば、今ある道路システム全体が早く便利になり、距離と時間が節約でき、輸送力が増します。


 そうなれば、いまや人口減少で車も減るはずの日本で、新しい道路を作る必要性は、一部のまだ道路のネットワークが完成していないところ以外では大幅に減るはずです。つまり、将来の道路建設の必要性や需要が減るはずなのです。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080507/155496/index3.html

上記の部分には賛同する部分があって、特にアクアラインなど通行料が高い高速道路はもっと価格を下げることで利用者を増やし、首都高速等の渋滞緩和を目指すべきではあると思います。そもそもそれが目的で作られたわけですし。
そうすることで千葉の南側も活性化するでしょう。高速道路株式会社が土地の開発権限まで持っていたら、真っ先にそう言う事を考えたとは思いますが…高速道路株式会社の事業内容は高速道路株式会社法によって制限されているため、現状は不可能です。
なので私としては、高速道路を有効活用するためには、高速道路株式会社法を改正して高速道路株式会社の借金を通行料以外の事業から徴収することが重要だと考えます。高速道路会社が木更津周辺の土地を所持していたとしたら、そこに巨大な住宅や商業施設を建設することを計画するでしょう。施設の運営会社は他社に任せ、高速道路会社は土地の利用料を徴収して己の借金を返済し、アクアラインの通行料を下げる…利用料を下げながらも己の借金は減ると言う、一石二鳥の効果があります。
利用率の少ない地方には高速道路から直接乗り入れることのできる大型商用施設を建設するなりして利用率の増加を目指すことも可能になります。そうすれば過疎地の為に公害型の大型商用施設を作っても採算が取れなかったようなような地域にも大型店舗が出展できるようになり、地域の活性化に繋がる一因にもなるのではないでしょうか。


今の政治にとって重要なのは、国民生活の向上と日本の再活性化であるはずです。高速道路の無料化はその一手段となり得るのかも知れませんが、高速道路の無料化の為に今の苦しい国民生活を続けなくてはいけないというのでは本末転倒です。
いい加減、「税金を使って借金を返済して無料化すべき!」等と言うのは止めて欲しいものです。税金と言うものが、黙っていても無限にお金の沸いてくる打ち出の小槌のようなものだと思っているなら、山崎氏も従来の政治家と何ら変わらず、己の信奉する田中角栄氏には遠く及ばないでしょう。