無料化すればよいというものではない

1リットル25円の値下げより1キロ25円の撤廃を」について。

賛成する点

 その意味では、日本のガソリン税が高い、とは言えないのです。問題は、ガソリン税などの道路財源が、相変わらず新しい道路を作ることに使われていることです。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080205/146433/

その通りであると思う。ただその使い道が「高速道路の無料化」なのは、あまりにもお粗末ではないか。

まず前提条件がおかしい

街中で7km/Lの燃費の車っていったいどんな車なのか?去年の燃費一覧によると、10・15モード燃費平均値で7km/L程度なのは、車重2t以上の車、つまり高級車クラスの車の燃費であると言うこと。世の中の大半が中古車だと考えて平成10年くらいの新車燃費で考えてみても、1.8t程度の車の燃費基準である。
当然中古車の場合さまざまな不調によって実燃費は大きく下がってくるだろうし、10・15モード燃費は理想値であって実際値ではないと言う事を加味したとしても、街乗り燃費が7km/Lというのはあまりにも非現実的である。
経験上、私の所有する平成5年式の軽自動車の場合、平均燃費は15km/L。平成元年式の1600ccクラスの車(1.1t)であれば11km/Lで、高速道路を使って14km/L程度と言うことから「街中の燃費は高速の3割減」も言いすぎ。加えて軽自動車や1300ccクラスの車は街乗りメインで考えられているので、高速道路を使ってもあまり燃費は変わらない。プリウスに至っては高速道路を使うほうが燃費が悪い。なので下記の記述は大きな間違い。

ハイブリッド車のように、高速道路上では燃費が向上する自動車では、ガソリンの節約効果はさらに大きくなるでしょう。

ハイブリット車の燃費が良いのは、減速時などに発生するエネルギーを逐電し、それを動力として使えるからである。一定速度で走行する場合には他のエンジンとさほど変わらない燃費しか出せない。むしろハイブリットシステム分の重量が加算されるため、同クラスの車より燃費が良いと言うわけではない。*1

何故高速道路を利用するのかわかっていない

結局、50km移動するのにかかるコストの差は1L未満にしかならない。まあこれは距離数が大きくなればなるほど影響が出てくるものではあるので、1Lを大きいと見るか小さいと見るかは個人の主観だろう。
しかし高速道路を使うことの一番のメリットは、移動時間の短縮化である。筆者の試算では高速道路を使えば50kmを45分で移動できるが、下道を使うと75分もかかるとある。つまり50km移動するのに30分もの差ができると言う事。100km(八王子-甲府)なら1時間の差、200km(八王子-長野)なら2時間の差が生まれる。往復するならその倍。
単純な距離では比較的無いような場合もある。例えば埼玉県川越市から長野県佐久市に抜ける場合、国道299を通れば一直線ではあるものの、道幅が極端に狭くてヘアピンが多く(その為2t以上の車は通行禁止)、平均時速30km/hで走ることは困難だろう。その為通行量が少なく、結果として雪が降れば何時まで経っても路面が凍結したままなので、冬場は走れたものではない。その為、大きく迂回することにはなるが、関越自動車道を通る方が安全に早く到着できる。


つまり、高速道路の利点は「安全で早く移動できること」に尽きる。燃費などというものは二次的なものだ。もちろん燃費を意識したトラックなどは下道を延延と走ることもあるが、それは大抵時間に関係の無い深夜の話。地方の活性化を掲げて高速道路の無料化云々を言うのであれば、先ず高速道路は何の為に利用されているのかを知るべきであろう。

 それより、全国の高速道路がタダになれば大きな経済効果が生まれますから、新しい一般道路を作るよりも地域経済にもプラスでしょう。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071009/137073/?P=2

以前からこのような事を言い、「使われていない高速道路を活用しよう」と言うが、何故活用されていないのかと言うことをもっと考えるべきだろう。「利用する価値が無いから」と考えることが何故できないのか。幾ら無料化したところで不要な道路を使う事があるか?無料だからと言って1時間も2時間もかかるようなところへ気楽に車で移動するか?少なくとも私は片道1時間(=往復2時間)もかかる場所に気楽に出かけられはしない。

道路事業の問題点

 それだけではありません。国土交通省の発表によれば、通行料金が高いばかりに、全国の高速道路の65%が、ムダになっています。平行している国道は混雑しているのに、料金が高い高速道路が使われないからです。もったいない話です。これこそ、資源のムダづかいです。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080205/146433/?P=2

65%の高速道路が無駄になっているのはそうなのかもしれないが、「通行料金が高いばかりに」「国道は混雑しているのに高速道路が使われていない」のは実体験から嘘だと感じる。例えば東関東自動車道に併走している国道357(湾岸道路)は確かに物凄く混雑するが、東関道も十分混んでいる。国道20号も混雑はするが、中央道の通行量もかなり多く、場合によっては渋滞する。
幾ら道があったからといって、使う価値が無ければ誰も使わない。逆に言えば価値を認めれば有料でも使う人はかなり居るということ。使われていない高速道路の使われない理由と言うものは、その料金の高さではなく、その利用価値の無さではないか。とは言え、アクアラインのように料金と利用価値とのバランスが取れていない道があることも事実なので、一概に使われていない道に利用価値が無いとも言い切れない。


作られた道の利用価値を上げる努力を地元の人がしているか、と言う例。
国道4号(東京-宇都宮)はとても広いバイパスができた所為もあって使い勝手は良い。が、周りに建物が殆ど無い。急に尿意をもよおしたのでコンビにでも入ろうかと思ってみたものの、走れど走れどコンビニが無い。結局反対車線にある道の駅を使うことになった。
周囲は水田だらけで比較的商店を立てることも楽ではないかと思ったものの、農地法により農地の売買には少なくない制約を受ける。加えて、こういうことが本音にあるようだ。

 実際、こんなことがありました。ある地方に行った時のことです。農地以外の土地利用を法令で厳しく制限している地域の一部が宅地になっていたので、その農家に「何でこんなところを宅地にするのか」と尋ねてみました。そしたら、何と彼は「ここは基盤整備が入ったので、もう転用しても構わないんだ」と胸を張ってうれしそうに答えたんです。唖然としました。


 基盤整備というのは、一言で言えば、農業の生産効率を上げるために農地を整備する公共事業のことです。農家にとっては、農地をきれいな状態にした方が宅地として高く売れるので、非常にありがたい事業なんです。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070919/135317/?P=2

なるほど、これなら道の駅だけがぽつんと存在している理由も納得する。道の駅の建設は公共事業の一つだからだ。
こういう事例だけで判断はできないが、結局、地方の発展を妨げているのは地方の農家なのではないか。であれば、幾ら地方の道路を整備したところで、幾ら高速道路を無料化したところで、その周囲の土地を農家が土地を手放さないのだから、発展しようが無いのも当然だろう。
道路事業における問題点はそういうことなのではないか。

高速道路の活用

「道路を活用する」とはよく言うが、何を持って「道路の活用」なのかは、もっと議論されて然るべきだろう。走っていれば活用されていると考えるのはお粗末だ。店の並ぶ下道であれば、通行量がその地域の経済発展に繋がるだろうが、単なる道だけでかつ一方通行の高速道路では、通行量が増えるだけでは地域の発展には繋がらない。


ではどうすれば高速道路が活用できるか。それはサービスエリアの活用方法如何ではないか、と思う。
例えば岡谷JCTに大きなサービスエリアを建設する。そこではユーターン(東京から来た車が東京へ帰れる)を可能にする。
加えて岡谷駅を利用することで鉄道輸送を併用することができれば、このサービスエリアが物資の大集積場になることができる。長距離・大量輸送には鉄道を使い、短距離・少量輸送にはトラックが使える。物資が集積すると言うことは企業も誘致しやすくなる。その交通網を利用した地域産業も活性化する、つまり、地方の活性化に繋がると言うことだ。


しかしそれには高速道路会社に対する規制緩和が必要になるだろう。高速道路周辺の土地活用について自由な運営ができるようにならない限り高速道路を活用できたとは言えない。活用できなければ40兆以上もの借金を返済できるとも思えない。

*1:高速道路は渋滞するのが常とも言えるので、そういう際にはとても燃費が良くなるだろうが、それは筆者の意図からずれるので考えないことにする。