今年の雇用情勢

舛添厚労相から、派遣業見直しの検討が指示された。

 舛添厚生労働相は5日の閣議後の記者会見で、すでに国会に提出している労働者派遣法改正案の修正に前向きな考えを明らかにした。さらに「個人的には」と断ったうえで、「製造業まで派遣労働を適用するのはいかがなものか。そのことも含めて検討しないといけない」と述べ、製造業派遣を禁止したい意向も明らかにした。


 政府は昨秋の臨時国会日雇い派遣の原則禁止を柱とした労働者派遣法の改正案を提出し、継続審議となっている。しかし、派遣労働者の約7割を占める登録型派遣の規制を見送ったことで労働者側から「不十分」との批判が相次いでいた。「派遣切り」が社会問題化し、さらなる規制強化に踏み込まざるをえなくなった形だ。


(略)


 製造業派遣については小泉政権時代の04年に解禁されたことで、大手製造業の工場などでの派遣労働者が急増、今回の景気後退に伴う急速な「派遣切り」を招いたと批判されている。厚労省のまとめでは、昨年10月から今年3月までに8万5千人の非正社員が職を失う見込みだ。


 一方、河村官房長官も5日の記者会見で、今後の雇用政策のあり方について、「派遣社員の受け入れがこの問題を惹起(じゃっき)したのは紛れもない。企業の社会的責任の議論もある。内部留保をこういうときに活用し、有能な技術をもった人材確保をすることは、まさに経営者の姿勢の問題。生涯雇用の日本的経営の利点も考えながら、経営者側にも再考をお願いしたい」と述べ、経済界と連携しながら対処していく考えを示した。

厚労相、派遣法改正案の修正検討 製造業派遣の禁止も - 朝日新聞 2009/01/05 -

この内容が具体的に効果を持ってくるのが何時頃からになるかは分からないが、派遣法について修正を行うことは非常に喜ばしい。下記の変更点も含めれば、派遣社員にとって非常に助けになる。

 自民、公明両党は急激な景気悪化で雇用契約の打ち切り増加が問題になっている派遣社員の救済策を検討する。派遣会社が派遣先の企業から得る仲介料に上限を設けることで、派遣社員の報酬引き上げにつなげる案などが浮上している。


 与党の新雇用対策プロジェクトチーム(川崎二郎座長)で月内に検討を始め、労働者派遣法改正案など関連法案の通常国会提出を目指す。

派遣仲介料の上限設定検討 与党PT「派遣社員の報酬上げを」 - 日経新聞 2009/01/04 -

但し、このような議論は好況の際にしておくべき話だった。好況の際に派遣業の見直しをせずにおきながら、不況に際して問題が顕在化してから場当たり的に法整備をするのは、政治の怠慢を表していると言える。
特に派遣会社の仲介料の上限設定に関しては、派遣事業者以外には大きな問題にならなかった筈である。派遣会社は多くの派遣社員から利益を吸い上げ、派遣会社社長は高額納税者に名前を連ねたり、政府の有識者会議に名を連ねたりする等、わが世の春を謳歌していた。反面派遣社員は派遣先会社に過酷な労働を強いられ(短期労働力と言うことで比較的月単価は高い報酬が支払われている為、「正社員よりも高い給料を払っている」と言う意識があるのかもしれない)、多くの仲介手数料を支払ってきたにも関わらず、このような不況下に於いて派遣会社が身分を保証することは無い。派遣事業者と言う一部の金持ちを作り上げた事が今回の不況から立ち直れるだけの国家的経済力となるのであれば、今までの事も非常に意味のあることだったとは言えるかも知れないが、それほど爪あとの小さな話だとも思えない。


また職を失う人数としては下記のような見方もあり、今年一年で何万人の非正社員、そして正社員が職を失うかは不透明。

 急速な需要減少に対応するため製造業では派遣社員期間従業員などの非正規社員の削減を加速している。自動車業界では完成車メーカー12社合計で今年度末までに1万7000人規模を削減する見通しのほか、電機業界でも公表分だけで国内で6000人近い非正規従業員の削減が計画されている。ただ現在の生産減ペースが続くようだと部品を含む自動車業界全体で10万人以上の削減が必要になる可能性もあり、今後は正社員の削減も検討対象に浮上しそうだ。

製造業、人員になお過剰感 自動車、「10万人超」の可能性も - 日経ネット 2008/12/27 -


こういった事情からか、経団連からも「雇用」が課題との発言が出る。

 日本経団連御手洗冨士夫会長は1日、平成21年の年頭所感を発表した。


 世界経済が同時不況の様相を強める中で、御手洗会長は「世界経済は未曾有の危機にある」と強調。そのうえで「景気回復に全精力を注ぎ、危機的な経済状況から抜け出さなければならない」と不況からの脱却を最重要課題に挙げ、経済の活性化と社会の安定に向け、経済界も力を尽くす意向を示した。


 一方、社会問題にもなっている雇用問題を解決するため、取り組みを強化する必要性も訴えた。御手洗会長は「官民が協力して雇用保険などのセーフティーネットを強化するとともに、働く場の創造と人材育成に一層努力する」とし、雇用確保を重視する姿勢を強調した。

経団連会長「雇用重視」を強調 - 産経新聞 2009/01/08 -

しかし派遣の見直しは「性急」との意見が出される。

 景気回復の決め手はあるのか。6日開かれた経済3団体の新年パーティーに出席した経営者からは、麻生政権の掲げる2兆円の定額給付金の効果を疑問視する声が相次いだ。一方、「派遣切り」をきっかけに浮上した製造業派遣の規制強化には否定的な意見が強いが、労働法制見直しに前向きな意見も出始めた。


 パーティーの後に開かれた経済3団体トップによる共同記者会見。政府内で製造業派遣の禁止論が浮上していることについて、経済同友会の桜井正光・代表幹事は「製造業を派遣対象から排除するのは行き過ぎだ」と批判した。


 自動車・電機各社による「派遣切り」が相次ぐのを受け、舛添厚生労働相が「製造業まで派遣労働を適用するのはいかがなものか。国際競争を勝ち抜くため、しわ寄せが低賃金や派遣労働に行っていいのか」と発言。規制すべきだとの考えを示していた。


 これに対し、桜井氏はこの日の会見で「(失業者らに対する)セーフティーネット(安全網)の充実など手直しを考えるのが重要だ(論点1)」と指摘した。ともに記者会見に臨んだ岡村正・日本商工会議所会頭も、「うまく機能しているときは、従業員は仕事の選択ができ、企業は繁閑期の労働調整ができた」と、製造業派遣の意義を強調した。


 アサヒビール池田弘一会長も、見直し論議に対し「性急すぎる。もし製造派遣を規制すれば(企業はかえって人を雇わなくなり)失業率が高まる(論点2)」と強調。三井物産の槍田松瑩社長は「バランスのとれた柔軟な雇用の仕組みがなければ、製造業は海外に逃避する」とした。ともに規制の強化が、かえって雇用情勢を悪化させるとの指摘だ。


 経営悪化を受け大幅な人員削減に取り組んでいるソニー中鉢良治社長も「議論が内向きになりすぎている。日本の国際競争力の低下は避けなければならない(論点3)」と話した。


 ただ、これをきっかけに、労働法制のあり方を見直すべきではないかとの指摘も出ている。セブン&アイ・ホールディングス鈴木敏文会長は「正社員、非正社員という分け方が正しいのか、考える時期にきている」とする。


 日本経団連御手洗冨士夫会長も共同記者会見で、製造業派遣について「働き方の多様性というニーズに対応してきた」と、その意義を指摘したうえで、「将来の環境変化に対応するために政労使で法制の見直しをしていけばよい」と、雇用の実情に応じた検討の必要性に言及した。


 元産業再生機構専務で、現在、経営共創基盤の冨山和彦代表取締役は「非正社員に対する保護を強化する一方で正社員の保護をもっと緩めるべきではないか(論点4)」と提案した。

製造業への派遣の見直し「性急すぎる」 財界トップ - 朝日新聞 2009/01/07 -

論点1:「(失業者らに対する)セーフティーネット(安全網)の充実など手直しを考えるのが重要だ」について。
ではセーフティーネットの充実を図るために法人税の税率を上げる、と言う案には賛同してくれるのだろうか。現在社会保障費は安定的供給が見込めるとする消費税を財源とする案が持ち上がっているが、代わりに法人税を用いると言う案も考えてくれるのだろうか。
制度の見直しは重要だが、その財源をどうやって作るかについて語らないと単なる妄言になってしまう。責任ある立場の方は自分の発言に責任を持って、今後の政策実現に向けて協力して頂きたいものである。


論点2:「製造派遣を規制すれば(企業はかえって人を雇わなくなり)失業率が高まる」について。
現在も企業は余剰に人を囲っているわけではないだろう。それでも尚失業率が高まると言うことは、つまりサービス残業に代表されるような労働法を無視した経営を行うからに他ならない。むしろこのような発言が出たことを危機とし、労働基準監督所が自発的に企業の状況を確認できるような法整備を進めるべきであろう。


論点3:「日本の国際競争力の低下は避けなければならない」について。
論点2も踏まえ、人件費の高騰が国際競争力の低下に繋がる事は否めないが、無理な価格競争をすべきではなかろう。
日本が先進国として競争力を保とうとするのであれば、発展途上国には追いつけないだけの技術的な製品的価値によって保つべきである。その為には社内における技術職の優遇や研究開発費への投資等、企業体質の変化こそ生き残る術ではないか。
経営者は自らの経営力の無さによって現在企業を危機に陥れているのだということを自覚し、その建て直しを安易な経費削減にしか頼らないのだとすれば、数年後の企業体力は致命的になると言うことをもっと深刻に受け止めるべきであろう。
幸い、多くの投資銀行が潰れた現在に於いて、企業は株主への利益供与のみを考えた短期収益を目指した経営から、長期収益を考えた経営に舵を取れる状況が整ったとも言えるのだから、是非経営者の方方には大胆な改革を進めていただきたいと思う。


論点4:「非正社員に対する保護を強化する一方で正社員の保護をもっと緩めるべきではないか」について。
会社の非正規社員に対する過酷な態度が表面化した現在に於いて、正社員の保護を緩めるべきだと言うのは論外であろう。重要なのは「安定した雇用」であり、企業の人員計画にあわせた都合の良い雇用形態の制定ではない。
日本で企業活動をしていることがどれだけのメリットであり、そしてそのメリットだけを享受してデメリットを許容しようとしないのは、あたかも観光客が観光地を楽しむだけ楽しんでゴミを散らかして帰るようなものである。ゴミの片づけまで含めた上での利用代(=セーフティーネット等の社会保障費を含めた上での法人税増税)を取ろうとすれば「一部利用者の為に全員が負担するのはおかしい」「では別の観光地に行く」と文句を言い、では料金を取らないで置けば「禁止はされているだろうが他の人もやっているので私もやる」と安易な法令違反をする姿勢は、あまりにも子供じみている。
経営者の方方には、市場は食いつぶすものではなく育てるものだと言う姿勢を持って欲しい。


今年政権奪取をもくろむ民主党は、定額給付金を失業者に使うべきだと提言した。

 民主、共産、社民、国民新、新党大地の各党幹部は4日、東京・日比谷公園の「年越し派遣村」で開かれた集会に参加し、5日召集の通常国会の冒頭に、非正規労働者の雇用と住居の確保を求める決議案を衆参両院に提出することで一致した。与党にも同調を迫る。
 この後、民主党小沢一郎代表らによる幹部会を開いて決議案提出を確認。失業者が拡大している現状を踏まえ、雇用と住居の確保や生活保護制度の弾力的運用について「政治が全力で緊急に取り組むべきである」との文面で調整している。
 民主党菅直人代表代行は集会で、2008年度第2次補正予算案に盛り込まれた総額2兆円の定額給付金について「2兆円あれば、100万人の失業者に月17万円ずつ1年間支給しても賄える」と指摘。この後、記者団に「定額給付金補正予算案から切り離し、雇用・景気対策を急いで実現させるよう、通常国会麻生太郎首相に迫っていきたい」と語った。 

「雇用・住居確保」で決議案=通常国会冒頭に提出へ−野党5党 - 時事通信 2009/01/04 -

しかし、昨年9月の時点での完全失業者数は200万人超。ただばら撒くだけでは半数も救えない計算。
ちなみに住居確保は既に行われているので、むしろ民主党は現在の国政状態さえも理解していないと言うことを発露させてしまったとも言える。

Q43. 雇用促進住宅の入居要件と手続について教えてください。また、失業中でも入居できますか。


A. 雇用促進住宅は、雇用保険の雇用福祉事業費で整備された賃貸住宅で、全国に約1千5百か所、約14万戸あり、独立行政法人雇用・能力開発機構が設置し、財団法人雇用振興協会が管理しています。家賃は比較的低い額に抑えられており、勤労者の方々に貸与されています。

ハローワークインターネットサービス

これで与党が務まるのか、と言うのは非常に疑問を感じる。
またこれ以上の生活保護費の上昇はあまりにも危険が高い。

 年々増加を続ける生活保護の国庫負担金が、2009年度に初の2兆円台となる見通しとなった。厚生労働省は同年度当初予算案に前年度比4.7%増の2兆585億円を計上。当初予算ベースでは過去最高額だ。生活保護の受給世帯割合を示す「保護率」は、失業率と一定の相関関係があるとされ、雇用情勢がさらに悪化すれば給付額が当初予算を上回る可能性すらある。

 生活保護の受給世帯数は07年度で1カ月平均110万5275世帯と、前年度を3万世帯近く上回り過去最多を更新、その後も増加傾向にある。同省はこうした傾向や、直近の景気状況を加味して09年度は2兆円以上が必要になると推計した。

生活保護、過去最高に=国負担額、初の2兆円台か−厚労省 - 時事通信 2008/12/28 -

国の収入が50兆円を切っている昨今、2兆円超の生活保護費は異常ではないか。これに加えてさらに2兆円を失業者に給付するとなったら、数年のうちに国の歳入の1割が生活保護費に消えていくような状態になりかねない。それでは国が成り立たない。「生活に困ってる人に生活保護費を」と言うお題目は非常に人道的に思えて耳障りの良い言葉だが、過剰な保護は健全な労働者の労働意欲を削ることになりかねない。
生活保護費の支給期間に原則期限を設けるなど、「自立支援」と言う形での運用を目指さないとならぬはずだ。自民党の案を「ばら撒き」と評するのであれば、民主党の案は「無産階級の固定化」と評されるべきであろう。


職を求めに国会議事堂に向かう「派遣村」の集団。

1月5日、日比谷公園の「年越し派遣村」は撤収を終え、340人を超える人々が新たな施設に移動した。この間、入村者は約500名で、ボランティアは約 1700名に達した。全国から寄せられたカンパは2315万円だった。国会に向けたデモ出発集会で全国ユニオンの安部誠さんは「派遣村は、ささやかだが大きな成果を生んだ。我々と皆さんの活動によって、世の中は変えられるんだ、という希望を持つことができた。みんなが安心して働ける世の中をつくるために、これからも一緒にたたかっていこう」と熱く呼びかけた。国会に向かう長蛇のデモは、まさに「怒りの貧者の行進」そのものだった。
午後1時半からは、院内集会が開かれた。民主・社民・共産・国民新党新党大地の党首クラスが勢ぞろいし、問題解決にむけて強い決意が語られた。また、大村厚生労働副大臣自民党片山さつき議員も出席し、前向きの発言をした。派遣村の運動は、確実に日本の政治を動かし始めた。(M)

写真速報 : 世の中は変えられる!「派遣村」が国会へデモ

職を求めるならハローワークに行くべきだ。先述したように住居の斡旋もしてくれる。これでは下記のような発言をする方がいるのも当然である。

 坂本哲志総務大臣政務官は5日、総務省の仕事始め式で、仕事や住居を失った労働者らが宿泊していた日比谷公園(東京都千代田区)の「年越し派遣村」について、「本当にまじめに働こうとしている人たちが集まっているのかという気もした」と述べた。失業者を支援する市民団体などの反発を招きそうだ。
 同政務官派遣村の活動について、「40年前の学生紛争の時に『学内を開放しろ』『学長出てこい』(などと学生らが要求した)、そういう戦略のようなものが垣間見える気がした」とも述べた。

「本当に働こうという人か」=派遣村で発言−坂本総務大臣政務官 - 時事通信社 2009/01/05 -

言い過ぎか、と言えばそうでもなく、実際派遣村の方の行動予定に「求職活動」と言う文字は無く「デモ」がある。

6時50分 ボランティア集合
8時 朝食
9時半 村民大移動式
10時半 厚生労働省行動
12時 国会請願デモ
13時半 国会院内集会
14時半 バスに分乗して大移動

年越し派遣村 5日の予定

そして国会では下記のような活動をしている。

 民主、共産、社民、国民新、新党大地の野党各党は五日午後、「雇用と住まいを守る緊急集会」を国会内で開いた。政府側から大村秀章厚労副大臣が出席したほか、与野党の国会議員約九十人や「年越し派遣村」から七十人も参加した。

 民主党菅直人代表代行は「今回の問題は天災ではなくて人災。大きな責任は野党も含めた政治にある」と指摘。野党共同で提出予定の非正規労働者の雇用と住居の確保を求める国会決議案の発案者の鈴木宗男新党大地代表は「与党は(決議案を採択したければ)二次補正予算案に賛成しろという。雇用と宿泊の確保は取引の話ではない。今日を境に国民運動として頑張ろう」と訴えた。

 この後、民主党は党緊急雇用対策本部を開き、派遣労働者の中途解約を制限する法案の提出準備を進めるとともに、労働者派遣法改正案について野党間で再調整する方針を確認した。

国会で雇用対策集会 野党「派遣村」からも参加 - 東京新聞 2009/01/06 -

何のための集団だか推して知るべしと言ったところか。これでは世間の同情が集まるはずも無かろう。


心から求職している方が居ると言うのは知っている。そう言った方方の力になれるよう国が支援すると言う姿勢は非常に重要だとも思う。一刻も早く不況から脱出してくれるよう、政府には関連法案の早期制定を強く望みたい。
逆にそういった方方を現政権を揺さぶる手段として利用する連中は唾棄すべき存在であるとしか思えない。「労働者を救済する」事を旗に掲げつつも、今年も審議拒否を繰り返して政府の足を引っ張ることしかしないのかどうか、今後の態度を注意深く観察していきたい。