工場に萌える理由

工場の美 再発見、写真集人気 ツアーに女性殺到」について。

評論家・山田五郎さんの話「今はあらゆるものが電子化されて小さく軽くなり、手触りを失っていく時代。便利だけれど、少し不安もある。高度経済成長期の巨大建造物に『萌える』のは、努力の結果や進歩が目に見えた時代へのあこがれであり、圧倒的な存在感や質感にある種の安心感を求めているのだと思う」

女性に人気な理由はそうなのかもしれないが、男性にとっては巨大建造物と言うものはいつも心揺さぶる存在だからではないか、と思う。東京タワー然りエンパイアステートビル然り、姫路城やノイシュヴァンシュタイン城然り、東大寺や教会・モスク然り、古くは古墳やピラミッド等、巨大建造物と言うものはその圧倒的な存在感によって多くの人の心を捉えて話さない存在であったのだと思う。
つまり、今の時代だから好まれるのではなく、何時の時代にも好まれるものだという事。そしてたまたま今、工場の魅力がクローズアップされているに過ぎないという事。
では何故、他にも様様な巨大建造物がある中で工場が女性に人気が出たかと言えば、やはり工場の夜景の素晴しさが大きな原因ではないかと思う。写真集「工場萌え」の中でも、やはり夜景は格別だ。もし工場の夜景を見た事がないのであれば、写真でも良いので一度見てみることをお勧めする。とは言え、本物が発するスケールの大きさは桁違いであるから、できることなら実物を見ることをお勧めする。


工場とは現代の城であると私は思う。以前にも書いたが、工場は機能美の集合体であり、工場と言うシステムを動かす為に多くの人人と様様な機械が動いている。それは正に戦場の城と同じく、その城のポテンシャルを活かす為に多くの兵士と銃器等が動き回っているかのようではないか。
だから私は、「工場萌え」はあまり好きではない。「工場萌え」でクローズアップされているのは主に工場を形成する建物であり、工場と言うシステムを写しているものが少ないからだ。工場と言うシステムは、それぞれがとても大きな建造物であるにも拘らず、一つだけでは十分な能力を発揮できないと言うところに「一人一人の特技や才能は素晴しいけれど、一人でいては何もできず、多くの人と力を合わせ様様な道具を駆使することで途方もない成果を挙げる事ができる」と言ったような、人間社会の縮図のようなものを感じ、無機質の集合体であるにも拘らずとても人間臭くて親しみが持てる。
建物一つ一つの魅力と言う点では、廃墟や寺社の方が数段素晴しいと思うし。


巨大建造物に対する憧れは鉄人28号から始まるロボットアニメとも無縁ではないだろうし、宇宙戦艦ヤマト等の宇宙戦艦モノにも通じるものがあると思う。鉄子と呼ばれる鉄道ファンやSLファンの憧れの中にも同様のものを見つける事ができるかもしれないし、戦闘機や戦車等の兵器に対するある種の憧憬にも、トラックやワンボックスカーに対する思い等にも、様様な格闘技選手に対する羨望の眼差しにも、根底には「大きなものはカッコイイ」と言う思いがあるように感じる。
そう考えるとどれもこれも「男の子向き」とされる趣味であり、大きなものに憧れる本能と言うものは男性特有のものなのかもしれない。男は自ら子をなす事ができないからこそ何かを作ろう、作るのであれば他者よりも優れたものを作ろうと言う思いが働き、巨大建造物に憧れるんじゃないかと思うのだ。
逆に女性は「自らの子に受け継げる価値あるもの」、つまり被服や宝石といったオリジナリティの高いものに憧れるのかもしれない。


まあ何に憧れるのかは人それぞれだが、安易に「海外」と言う選択肢ではなく、日本にも未だ自分の知らない場所が多いのだ、という事を知り、国内旅行が盛況してくれるとありがたい。環境保全を考えれば飛行機を使うなんてもってのほかなんだし。