雇用と犯罪

国が再犯防止の為に就労支援をすることに。

 政府は、刑務所や少年院の出所者の就職を支援するための「就労支援推進協議会」を今年度中に全都道府県に設置する方針を固めた。


 刑務所などへの再入所者のうち、無職者の割合が7割以上を占めることが法務省の調査で浮かび上がっていることから、出所者が就職し、安定した生活を送ることが再犯防止の決め手だと判断、雇用対策に乗り出すことにした。


 刑務所への再入所者のうち、無職者が占める割合は1997年度は約62%だったが、2006年度は約72%と、増加傾向にある。


 今回の就職支援は、こうした傾向を受け、法務省厚生労働省が連携して取り組むものだ。法務省保護観察所や刑務所などの刑事施設、厚生労働省の労働局、それに都道府県、地元の経済界などが協議会のメンバーとなる。


 地元企業への呼びかけや、シンポジウム開催などにより、出所者の就職を受け入れる「協力雇用主」の企業の輪を広げることを目指す。


 法務省の調査によると、07年の協力雇用主の業種は、53・5%が建設業で、14・6%が製造業だった。また、06年に雇用された出所者のうち、臨時や日雇い労働者が70・2%を占めた。


 同省は、協力雇用主の業種に偏りがあり、景気に左右されやすい業種が多いことや、日雇い労働の比率が高いことなどが、出所者の生活の不安定さにつながっていると分析。各地の協議会は今後、出所者が幅広い業種でフルタイムで働けるよう地元企業に理解を求める活動を展開する方針だ。


 協議会は、全国に先駆けて今年5月に広島県に初めて設置された。協力雇用主の数は、5月時点の250社から、7月28日現在で295社に増え、順調なすべり出しだという。


 政府が再犯防止対策強化に乗り出すのは、犯罪件数の約6割が再犯者によるもので、治安の改善策の重要課題だとの認識が高まったためだ。

「生活の安定」で再犯防止、出所者の就労を国が支援(2008年7月28日12時50分)

雇用側としては「犯罪の6割は再犯」と言う事実を突きつけられた上で出所者を雇用すると言うのは経営上のリスクになってしまう恐れがあり、おいそれと受け入れることができないと言うのが正直なところではないか。とは言え「犯罪を犯した方が悪い」と切って捨ててしまうと、また刑務所暮らしに戻ろうと犯行をする人が出ないとも限らない。先日も留置所のほうが安定した生活が送れる、と犯行自白した人が居たが、こういう例を見ると入所中よりも出社後の社会のほうが厳しいのだと思う。

 5年前に自動車を盗んだとして、栃木県警下野署は20日、東京都板橋区生まれの住所不定、無職佐藤良和容疑者(37)を窃盗の疑いで逮捕した。


 調べでは、佐藤容疑者は03年5月3日、下野市柴の空き地に駐車していた近くの会社員所有のトラック1台(時価40万円)を盗んだ疑い。


 同署によると、佐藤容疑者は19日午後8時ごろ、同市内の公衆電話から「昔、車を盗んだ」と110番通報し、自首してきた。「金がなく、生活に困っていた。留置所の方が安定した生活ができると思った」と自首の理由を説明しているという。逮捕時、佐藤容疑者の所持金は数十円だったという。

所持金数十円「留置所の方が」 5年前の自動車盗を自首(2008年7月21日22時54分)

とは言え私は、出所後の面倒を見る必要は無いと思う。逆に「一度刑務所に入るとああいうことになる」と言う厳しい現実があった方が、犯罪の抑制にはなりえるのではないかと思うのだ。
ただその場合、過失と故意とで犯罪者を区別するという事が必要であると思う。車で人を撥ねて結果的に人を死なせてしまった人と相手の胸にナイフを突きたて故意に人を殺した人とは、明確に区別されなければならない。過失で過ちを犯す危険性は誰にでも在る。車を運転する事が好きな私はその危険性がより高いと言えるだろうが、逆に人を意図的に殺す可能性はほぼ0であろう。
設立される「就労支援推進協議会」の具体的な業務がどのようになるか分からないが、できれば犯罪者を一括りにして語るのではなく、どの様な犯罪の再犯率がどれくらいのものなのかと言うことを調べた上で、出所後の面倒をどの様に見ていくのかを考えて欲しい。受け入れ側の企業に「運転中の業務上過失致死傷罪の場合、再犯率は限りなく低い*1」と言うような統計情報を提示するなどし、抵抗感を減らすような努力をして欲しいと願う。


しかし、それよりも現在の労働環境をどうにかするほうが優先だ。先日も八王子で通り魔殺人が起きたばかりだ。凶器は当時買ったと言う包丁で、ナイフの所持規制が犯罪抑止に繋がる訳ではない事を表す例ともなった。

 22日午後9時40分ごろ、東京都八王子市明神町3の京王八王子駅ビル9階の書店「啓文堂八王子店」で、店内に入ってきた男がいきなり、刃物で女性2人を次々に刺した。


 警視庁八王子署によると、アルバイト店員の女性が左胸を一突きされ、病院に搬送されたが約1時間後に死亡、客の女性(21)も左胸や腕など3か所を切られて軽傷を負った。男はそのまま逃走したが、同署は約20分後、約300メートル離れたJR八王子駅北口付近の路上を歩いていた男の身柄を確保。事情を聞いたところ、「私が刺した」と認めたため、女性店員に対する殺人未遂容疑で緊急逮捕した。


 発表によると、男は自称同市川口町、会社員菅野昭一容疑者(33)。死亡した女性店員は、中央大3年の斎木愛(まな)さん(22)(八王子市)とみられる。


 菅野容疑者は、刺した2人とは面識がなく、調べに対し、「仕事がうまくいかず、両親に相談したが乗ってくれなかった。ムシャクシャして、とっさに無差別に人を殺したくなり、包丁を買って書店に向かった」と供述しているという。

八王子の駅ビルで通り魔、女性刺され死亡…容疑の男逮捕(2008年7月23日02時15分)

秋葉原の事件もやはり派遣労働者と言う生活の不安定さによって将来を悲観した結果であろう。

自民党平沢勝栄衆院議員らが2008年7月23日、インターネットカフェで匿名のままパソコンを利用することや深夜にネットカフェを利用することなどを法で規制しようと、有志による議員連盟を発足させた。

匿名でのパソコン利用が犯罪の温床になっているとの指摘を受けて、活動を始めることにしたという。今後、議連では、ネットカフェの利用状況を調べ、利用者の身分確認などをどのように行うかなどを検討するとしている。

ネットカフェ規制目指す 自民・平沢氏ら議連を発足(2008/07/24)

「何故ネカフェ難民が生まれるのか」と言う根本原因をどうにかしない限り、第二第三のネカフェができるだけである。外国人労働者を雇う前にこういった方方を低賃金でも良いから正社員として雇用し、長期にわたって生活の安定を図らせる事が良いのではないか。
ムラ社会の日本には欧米型の成果主義ではなく、年功序列制度が似合っているのではないか。成果主義の見直しは労働経済白書でも語られた

 厚生労働省は22日、2008年版の労働経済白書を発表した。バブル経済崩壊後、企業が導入した業績・成果主義的な賃金制度の弊害を指摘し、運用などの見直しを求めたほか、パートなどの非正規雇用の増加については、労働者の仕事に対する満足度を低下させるなど問題が多いと分析。多くの日本企業が実施し、業績回復に一役買った人事政策に、白書が疑問を投げかけた形だ。


 これまで政府が進めてきた労働法制の規制緩和の結果、非正規雇用の代表格の派遣労働者が増加しており、こうした政策の検証も求められる。


 白書は、企業が導入した業績・成果重視の賃金制度について、制度を望む社員の仕事への意欲を高めるものの、処遇や賃金に満足できない労働者も多く「必ずしも成功していない」と結論付けた。


 その上で、制度の適用範囲を見直し、労働意欲の向上につながる部門に限定して積極活用するほか、評価基準を明確化するなど制度の運用改善が必要と訴えた。

成果主義の運用見直し指摘 08年版労働経済白書(2008/07/22)

「業績回復に一役買った」と言う点を分かりやすく解説した台詞。

 つまり農業でいったら、次の収穫に絶対に必要な種籾まで食べちゃっているようなもの。少し考えたらわかるけれど、短時間で成績を上げることを求められたら、次の収穫などできやしない。そういう食い潰しの果てがいまの鬱や自殺の増加だよ。

失敗だらけの現代ニッポン、安全社会という落とし穴

文章の内容は成果主義に対する批判だが、上記の引用は非正規雇用を増やすなどした今の企業体質そのものを表す言葉である。今はまだ鬱や自殺程度で済んではいるが、より一層社会に対する不満が高まれば「どうせ死ぬなら」と無差別殺人の件数が多くなる恐れは非常に高い。
社会の安定のためには先ずは雇用を安定させねばならない。犯罪はそう言った失策の結果であることを政治家は真摯に捕らえなければならない。湧き上がった問題に対処療法を繰り返すだけでは根本的な治療は難しく、他の問題が発生し続けるだけだ。


貧困者に関してはもう女性とか男性とか言う次元の話ではいだろう。そんな事を調べるのは無駄金としか思えない。

 内閣府男女共同参画会議は26日、母子家庭の母親などの生活困難者に関する実態調査を行う方針を決めた。


 女性が生活困難に陥る背景のうち、性差に基づく要因を分析し、関係省庁の施策に反映させることを目指す。2009年夏までに調査結果をまとめる予定。


 調査は、同会議の監視・影響調査専門調査会が行う。〈1〉母子家庭の母親〈2〉収入が少ない非正規雇用者〈3〉ニート若年無業者)−−など、経済的な自立が難しい人たちを対象に、生活実態や背景などを調べる。雇用機会や待遇の厳しさ、子育てや介護による就業の中断など、女性特有の要因があるのかどうかを明らかにするのが目的だ。


 9月に有識者による検討会を設置し、婦人相談所や母子生活支援施設などの支援機関・団体に聞き取り調査をしたり、最近の統計結果などを分析したりする。

女性の生活困難、内閣府が実態調査へ(2008年7月27日)

*1:これは例であって事実かどうかは定かではない