民営化が正しい事なのか?

「官」のしあわせの行き着く果ては」と言うコラムについて。


耳障りは良いのだけれど、どうも納得できない部分が多い。

顧客至上主義は自分の首を絞めることに他ならない

 ならばどうすればいいのか。答えはシンプルです。書籍の第2章で私が実践しているように、こうした「公」の仕事においても、でき得る限り市場経済をツールとして利用しながら、「お客さま第一主義」で取り組めばいいのです。

もしお客様第一主義の場合、学校に於いてはモンスターペアレント*1に対してはどのような対策を採るのだろうか?
医療における小児科・産婦人科の減少も、結局は患者(=顧客)に起因する為だと聞く*2が、どのような対策が取れるのか。
その点に関しては、次回のコラムで詳細に触れてくれるだろうから、その後コメントできたらと思う。


結局のところ、これ以上顧客主義は必要なのだろうか?
妥当だなと思ったのは下記の例え。

今の医療に対するニーズは、ビッツの価格で、ベンツ並みのサービスを提供しろというものです。

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail.php?qid=1212566732&sort=1

医療に限らず、顧客側が無理難題を要求しすぎる。
とりわけモノが介在しないサービスにおいては人件費の削減をすることが第一の要求になるようで、私の業界では、見積りを出せば必ずと言ってよいほど
「機材費は仕入れ価格があるから下げられないだろうが、開発費(=人件費)は下げられるだろう」
と言われる。
業種が違う知り合いの自営業の方もやはり
「材料費は仕方が無いが、工賃(=人件費)は下げられるだろう」
と取引先等から言われる事が多いようだ。
結局仕事請けるには値を下げねばならず、結果従業員の給料を上げる事ができずに赤字ギリギリの経営を続けなくてはならなくなる。


顧客の立場からしたら「安くて良いサービス」を提供してもらうのは当たり前であり、提供側はそのための企業努力をする必要があると主張するのかもしれないが、「安かろう悪かろう」の言葉があるように最低限度のラインが存在する。
一応全ての商品をその最低ラインに置く事を目的とした自由競争主義社会ではあるが、素人の私達にそれぞれの商品の値段についてどれくらいが妥当なのか、という事を見極めるのは難しい。
結果、安ければ安いほど良いという事になってしまい、過渡競争を強いる事になる。
第三次産業に従事する人口が多い世の中に於いて、商品の値段から人件費が削られるという事は、巡り巡って自分の収入が減る事である、という事を理解すべきだ。


その上で今一度問いたい。
顧客至上主義は重要なのだろうか?
顧客はサービスを提供してもらえるのが当たり前なのではなく、サービスの提供側が居て初めてサービスを受けられるのだから、利用する際に顧客側が感謝の気持ちを持つという事のほうが大切なのではないか?
渡辺氏の言葉を借りるとすれば、「ありがとう」を大切にするのは誰なのか?という事だ。

官営から民営にすればよいわけではないだろう

DIY感覚でわが家をつくる―後悔しない家の建て方・育て方(中村一朗著)」に詳しいのだが、建物の構造計算を官が行っていた時代について、
「確かに仕事は遅かったが、彼らはこと間違いを犯さないと言う意味では完璧だった」
と回想している。
ただそれでは、高層建築物の建築スピードに間に合わなかった為、構造計算は民営化された。
民営化された際、構造設計を担当する会社の多くは建設業界からの出資だったらしく、結果として中立的な第三者指揮官としての役割が果たせず、結果、構造計算書偽造問題が発生する事になる。


官に所属する人であっても、現場の職員の方方は精一杯やっている。
「給料に見合う仕事ではない」
と愚痴りつつも、誰かがやらねばならないのだからと日日をサービス残業に費やす公務員の友人らが、官であるがゆえに腐っているとか、サービスの質が悪いとは全く思わない。
確かに社会保険庁のような問題が起きないとは限らないが、民間の生命保険会社の保険金未払い等も問題になるのだから、問題の無い組織を求める事自体が難しいと言える(度が過ぎているとは思うが)。


官においては官僚・民においては経営陣が利権の為に腐っていくと言う構造には変わりが無いのだから、「民営化=サービスの向上」と安易に語ることは難しいだろう。
確かに官の方が「潰れない」と言う安心感や競争原理に晒されない分腐りやすくはあるのだろうが、少なくとも官の場合は、やる気さえあれば制度上我我で監視をする事ができる仕組みにはなっている。
それに過渡競争に晒されないという事は安定した持続的なサービスを提供できるという事であり、決して問題だと言う訳ではない。


農業・医療・教育とは、国や自治体の重要な政策であり、様様な計画と連携させた上で成り立つべきものであり、市場原理に任せておいて良い分野ではない。


分野の違う幾つかの成功例を元に、何でもかんでも「民営化すれば良くなる」と言うのは単なる扇動だ。
今の利権を官僚に代わって握りたいだけなのだから。




2007.09.06追記:
どうやら「お客様」の定義が私とは違うようで、的外れな批判になっているところがあった。
私は氏の「お客様」と言う定義は「お礼を言ってもらってありがたい相手」と言う定義で使っているのだと解釈した。
とは言え、ワタミのお客様を例に挙げて比較しながら話をしておきながら

 教育サービスの直接の享受者という意味で、学校にとって生徒はお客さまです。けれどもワタミの居酒屋のお客さまとは、大きく性質が異なる。誤解を恐れずにいえば、生徒たちはワタミのお客さまより、むしろワタミグループの社員と重なるところがあるのです。

とするのは、些か言葉遊びの感が拭えない。


ともあれ、民営化することが「お客様第一主義」を実現させる方法ではない、とする私の主張する事に何ら変わりは無い。